特集「海洋GISと空間解析-そのサイエンスと未来-」
要旨集
1)序説:海洋GISと空間解析-そのサイエンスと未来-(齊藤誠一・小松輝久)
東京大学海洋研究所共同利用シンポジウム「海洋GISと空間解析-そのサイエンスと未来-」の概要および海洋・水産GISの発展と最近の動向を簡単にまとめた.
2)GIS利用による水産海洋学への挑戦:(Geoff Meaden / 訳:清藤秀理・齊藤誠一)
世界中の漁業の多くは,乱獲だけでなく環境変化による影響を受けている.近年のGIS技術の発展は,そのような問題解決のための管理ツールとして考えられるようになってきた.しかしながら,多重スケールで,3次元の海洋環境を解析するためにGISを用いることは,そう容易なことではない.本論文では,GIS応用に関わる科学者,管理者,研究者が遭遇する主な挑戦,(a)知的・理論的挑戦,(b)実用的・組織的挑戦,(c)経済的挑戦,(d)社会・文化的挑戦について概観する.本論で述べられた困難性のため,その発展は徐々に進歩しているが,データ提供方法はさらに進歩し,それに加えて情報配信と情報の共有化や新しいGISプログラムの開発は,その困難を克服するために必要不可欠である.
3)海洋GISと空間解析-水産海洋分野における現状と展望- (西田勤・Geoff Meaden・伊藤喜代志)
水産海洋分野における「GISによる空間解析の現状と展望」について,過去2回の「水産科学・水圏生態分野におけるGIS・空間解析国際シンポジウム」で発表された論文を中心としてまとめた.水産海洋分野におけるGISは,「時空間における複雑な水産海洋データマイニング」および「海洋生態系と調和した水産資源管理」を実行し,「創造性・新発見」をもたらす統合的空間解析ツールとして,産・官・学でその価値が高まっている.
4)Web-GISの最前線(後藤真太郎)
インターネット上の地理情報システム(Web-GIS)はインターネットの持つ情報共有の機能を利用し,地図を介した広域な情報伝達手法として着目されている.本報告では,広域な災害時の情報一元化を目的とし,広域な油流出事故に適用した事例,リモートセンシングおよびシミュレーションモデルを油漂流の予測手法として併用した事例,Web-GIS上で複数の機関と共同で地図作成に利用した事例を中心に,Web-GISの環境災害への適用事例として紹介する.
5)GIS技術の国際標準化とその将来(平田更一)
地理情報(GIS : Geographic Information Systems)は,重要な新社会資本として広く使われるようになってきたが,異なるフォーマット間(異なるシステム間)のデータ交換の課題を抱えていた.90年代半ばから始まった国際標準化活動の中で,ITを援用した国際規格にてその課題を克服するとともに,Webを用いた地球規模でのデータ交換を可能にする新たな標準化活動が行われている.その概要を解説するとともに,ITSなどの地理情報を活用する分野,あるいはパーソナルユースなどの地理情報の普及などを概説する.
6)空間統計学の最前線(清水邦夫)
空間的に広がりをもつデータの統計的モデル化と解析のためには空間統計学の知識が有用である.本稿では,現段階での空間統計学的手法について文献を示しながら概観する.海洋GIS分野は,ダイナミックな空間データを産み出し,必要な統計解析手法を示唆することができる有望な分野である.
7)フェリーによる海水計測データと水中画像によるサンゴ礁時系列データのGIS化(原島省・顔小洋・陶衛峰
海洋情報はx, y, z, tにデータの多項目性を加えた5次元の座標軸を持つ.それらのGIS化に際しては,目的と次元の絞りこみが必要である.本報告では,瀬戸内海のフェリーで海水の水質をモニターした例,及びサンゴ礁で反復取得した水中画像データの例についてのウェブGIS構築の試みを紹介する.
8)GIS と海色衛星の赤潮モニタリングへの応用(Tan Chun Knee・石坂丞二)
GIS と海色衛星によって,赤潮情報をまとめることについて,有明海を例に述べた.
9)沿岸漁業振興のための水産GIS(濱野明)
「持続的な漁業生産」「生態系と調和のとれた漁業」を達成するために我々はGISをどのように利用していくのか?GIS技術と水中音響リモートセンシング技術を統合した人工魚礁効果評価法,沖合に点在する天然礁漁場を保護・管理するための漁場評価手法,さらにソナー情報に基づいた三次元解析手法の開発を通じて,沿岸漁業振興のための水産GISの構築と課題について論議する.
10)水産GISの開発と漁業情報サービスへの利用(斎藤克弥)
水産におけるGISの利用は急速に進みつつある.同時にこれを利用した漁業情報の配信が具体化しつつある.水産GISの概念と,実際に構築した水産GISについて説明すると共に,漁業情報サービスへの応用についても説明する.
11)海洋GISの漁業への応用: スルメイカ漁業を一例として(清藤秀理・齊藤誠一)
日本における海洋GISの利用,活用は,過去2回の国際会議「水産海洋分野への海洋GISの利用」等を参考にしても少ないのが現状である.本稿では,これまで著者らが行ってきた,夜間に集魚灯を用いるスルメイカ漁業に焦点を絞り,衛星リモートセンシングと海洋GISとを統合して行った解析結果と明らかになった知見について報告する.
12)鯨類調査,研究における海洋GISの活用 -フィールドから解析まで-(南極海編)(村瀬弘人・松岡耕二)
南極海での調査において衛星から得られた海氷情報をリアルタイムにモニタリングする上でGISは有効な道具である.また,GISの図化機能やデータベース機能を活用することにより,定性的・定量的な解析に使用する図やデータの作成が容易に行える.今後,鯨類調査・研究においてGISはさらに活用されるだろう.
13)鯨類調査,研究における海洋版GISの活用(北太平洋編)(川原重幸・村瀬弘人)
北太平洋の鯨類調査,研究で海洋版GISの活用が始まった.鯨類捕獲調査の目的の一つである鯨類の餌への嗜好性を推定するために,詳細に時空間を考慮し多様な情報の重ね合わせが得意な海洋版GISが用いられつつある.また海洋版GISにより過去に分析された小型捕鯨船の捕獲記録の再活用の試みを紹介する.
14)海洋GISの藻場調査への応用 (小松輝久・三上温子・石田健一・五十嵐千秋・立川賢一)
水産資源の涵養,沿岸生態系の健全な状態を持続するために藻場の保全や修復が必要である.このためには藻場のマッピングが不可欠であり,海洋GISは藻場分布データの処理や解析のための重要なツールとなっている.本稿では,藻場マッピング手法と,海洋GISおよび音響測深機,ナローマルチビームソナーを用いて行った研究結果を紹介する.
15)海洋GISの鉛直方向への応用(宮下和士)
音響計測により得られた情報は,水平的にも垂直的にも地理情報を持つことから空間的地理情報として特徴付けられる.本稿では,「海洋GISの鉛直方向への応用」に関連する最新研究の中で,特に著者の携わった「音響計測による生態研究(音響生態学)」について紹介し,本領域の今後の発展の可能性について述べる.
16)海洋GISソフトウェアの将来性 (伊藤喜代志・西田勤)
海洋版GIS(Marine Explorer)の開発者として,水産海洋分野における適切なGISとは何かについて海洋特有の構造からその基本機能を明らかにし,陸上GISとの差異や利用上あるいはソフトウェア開発上の問題点,そして将来の様々な課題等について検討した.